ホテルといえば、古くは出張族が出先での打ち合わせ後にメールを書いたり、もっと新しいところでは、ホテル内共用エリアのコワーキングスペースに新世代のデジタルノマドが集まってきたりと「リモートワークの拠点」を担うようになって久しい。
コロナ禍でホテルの宿泊利用が減少している中、リモートワーカーの利用を当て込み、客室を一時的なワーキングスペースとしてデイユースで提供 するホテルグループも現れている。
アコーホテルズなどの有力ホテル運営会社が推進している在宅勤務ならぬ「在ホテル勤務」というモデルは、仕事と家庭の切り替えに苦労している地元のビジネスパーソンのほか、何カ月にも及ぶ在宅勤務の末に気分転換を求める層もターゲットにしている。
オランダには「フォー・ザ・ホームワーカーズ(For The Home Workers)」なる在宅勤務者のためのウェブサイトがあり、ここでホリデイ・イン・エクスプレスからノボテル、ダブルツリーbyヒルトンに至るまで、さまざまなホテルの客室がワーキングスペースとして提供されている。例えばアムステルダムでは、デイユースで25ー85ユーロ(3,050―10,370円)、マンスリー契約で300ユーロ(36,600円)ほどが相場だ。
英国では、約250のホテルがノボテルやイビス、メルキュールなど、アコーホテルズ傘下のブランドへの転換を進めており、米国では、ロサンゼルスのホテル・フィゲロアが、高速Wi-Fi、プリンターの無制限利用、無料駐車場などの特典を盛り込んだ「ワーク・パークス・プログラム(仕事利用特典プログラム)」に参加している。
JLL EMEA ホテル&ホスピタリティ リサーチ ヘッド ジェシカ・ジャーンズは次のように説明する。
「あらゆる不動産セクターで垣根を超えた協業が求められているが、今まさにそうした動きが芽生え始めている。長期休業や低稼働を強いられ、新たな業務運営のあり方を模索しているホテル産業では、特にこうした動きが顕著だ。つまり、 遊休スペースを活用して、少しでも収益に転換する ということだ」
客室料金だけの問題ではない。「朝食に始まり、コーヒー、ランチ、場合によってはディナーに至るまで、多彩なサービスを提供することで、ホテル産業に新たな可能性が生まれる。もちろん、新型コロナウイルス感染防止に向けた現地の規制との兼ね合いもあるが、レジャー施設の利用などの無料特典をつけているホテルも存在する」(ジャーンズ)
アディナやバイブなどのブランドを擁するグローバルホテルチェーンのTFEでは、シドニー地区の客室を午前9時から午後5時までのデイユースプランで75豪ドル(5,550円)から提供している。しかも、レストラン、プール、ジムといった館内施設の利用料込みの料金だ。
ビデオ会議が終わったらルームサービスをオーダーするといった使い方は、短期的には地元のビジネスパーソンにとって魅力的なホテル活用法と映るはずだ。だが、長期的に見た場合、ホテルのプランとして定着するだろうか。
ジャーンズは「オフィス勤務に復帰する従業員が徐々に増えてくれば、デイユースプランの存在意義は薄れる可能性が高い。文字どおり需要次第で、その需要の大部分を生み出しているのは、例えばルームシェアをしていて在宅勤務が難しい人々をはじめ、フリーランス、業務委託で動いている人々だ」と指摘する。
ジャーンズによれば、 ホテルを使ったリモートワークというモデルは、都市部で最も大きな魅力を放つ 。とりわけ、この傾向を後押ししているのが、ここ10年に見られた都心の高層集合住宅に生活の場を移す都心回帰の動きだという。
「手狭な住居や通勤ラッシュなど何かと気苦労の多い大都市は、ホテルが一番真価を発揮しやすい環境だ」(ジャーンズ)
(引用元・詳細:JLLhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002505.000003860.html)